成人の下顎前突症(反対咬合、受け口)の矯正治療
受け口とは
成人の患者様で上の前歯に比べて下の前歯が前方にある状態を“受け口”と一般的に言われています。正常な骨格であれば上の前歯が下の前歯より前方にあるため、反対に噛み合わさっている状態を指しており、“反対咬合”、“下顎前突”とも言います。
この状態だと、前歯がうまくかみ合う事ができません。そのために前歯で物が噛み切れないという症状を訴える患者様もいます。
受け口になってしまう原因
骨格が原因で受け口になっている場合
成人の患者様には成長発育がありません。上下の顎骨の前後方向の位置関係は変化しません。これが原因で起きている受け口を骨格性下顎前突と言います。根本的に顎骨の位置を改善するには外科手術が必要になります。
また、手術が難しい場合は歯の傾斜角度を変える事によってかみ合わせを改善させます。これには精密検査をして前歯の傾斜角度を把握しておく必要があります。
初めて来られた患者様の質問に他の歯科医院で “手術をしなければ治らないと言われた”と伺う場合がありますが、前述した通り下顎前突だから外科手術をしなければならないという事はありません。矯正だけで治療が可能な場合が圧倒的に多いです。
前歯の傾斜角度で受け口になっている場合
上顎前歯が内側に傾斜している。あるいは下顎前歯が外側に傾斜している場合も受け口になります。上下顎の位置関係は正常であっても、前歯が傾斜してしまっていることで噛み合わせが反対になってしまっているようなイメージです。実際には骨格性と歯の傾斜角度の両者が混合して起きている場合がほとんどです。
放置するとどうなるのか?リスクは?
前歯で物が噛み切れない状態が続くため、日常生活を営むにあたって不自由に感じるケースが多くなります。また受け口の状態が長く続くと、顎関節に負荷がかかってしまい、噛む際に痛みを感じる、あるいは顎関節症の要因となる可能性があります。
また、審美的な面で受け口が気になる場合もあるかと思います。参考となりますが、日本人は海外の方々とくらべ下顎骨が発達しておらず、下顎骨の位置が後退していている傾向があります。したがって、相対的には出っ歯にっている方が多いと言えます。そのため、全体的に出っ歯には比較的に寛容な所が日本人にはあります。
一方で受け口は珍しいケースとなってしまうため、社会生活を営む上で変なニックネームつけられる。そんな事を耳にする事があります。私はこれもこの不正咬合のリスクだと思っています。精神的なダメージという事も心配です。
受け口の治療例
診断名 | 開咬を伴う骨格性下顎前突 |
治療法 | リンガルブラケット |
年代 | 20代 |
性別 | 女性 |
治療期間 | 30ヶ月 |
リスク | 外科手術による噛み合わせ・骨格の変化に伴う違和感など |
費用 | 費用:約135万円(税込) |
外科手術で治療した受け口(下顎前突):実際の治療経過を見て頂きます。
上下の顎骨の前後関係に差が大きい場合はこれは手術の併用をお勧めしています。年齢は18歳以降がその適応になります。18歳になれば上下の顎骨の成長もも落ちつきます。それほど大きな成長はありません。手術した後に成長したのでは後戻りした事になってしまいます。もちろん横顔も大きく変化するので、ご本人の希望も聞いた上での決定となります。治療の順序としては以下の4つの段階にわかれます。
1.精密検査、患者様へ現状の説明、治療法、口腔外科医の紹介
2.手術前の矯正治療:アイ矯正ではリンガルブラケットを使用して装置が見えないように治療していきます。
3.口腔外科医による手術:口腔外科医とは矯正治療に入る前の段階で、どんな手術を行うか?骨の移動量をどのくらいにするか?など密接に連絡を取ります。これは治療の成功には重要な事です。現在は上顎骨、下顎骨ともに手術を行う事がほとんどです。
4.手術後の矯正治療:手術後に噛めるように歯は排列しておきます。しかし、最初の状態ですべてが排列できるわけではありません。そこで手術が終わり顎骨の位置が決まってから緊密な咬合、微調整のための矯正治療をおこないます。
5.保定:通常の矯正治療と同じように保定は必要になります。リテーナーを装着していただきます。装着されているのはラップアラウンドタイプ (wrap-around retainer) のリテーナーですが、この他にクリタイプのリテーナーも必ずお作りします。ここまでの治療期間は25か月でした。
お顔立ちも改善しました。
赤い部分が手術による変化を示しています。外科症例もアイ矯正ではリンガルブラケットを使用して治療しています。これだけの変化があれば手術を受ける価値があると言えるかもしれません。リンガルブラケット見えない矯正治療でも受け口の治療は可能です。
学会発表およ論文
著書
“Welcome to Fujita Methd” The Philosophy and Art of the Lingual Bracket Treatment. p.201-234. 2020.2 Dentos co. Ltd.
論文
Multilingual bracket treatment combined with orthognathic surgery in a skeletal class III patient with facial asymmetry. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1999; 115(6): 654-659 (アメリカ矯正歯科学会誌)
Fukui T, Tsuruta M. Invisible treatment of a Class III female adult patient with severe crowding and cross-bite. J Orthod. 2002; 29(4): 267-275.(イギリス矯正歯科学会誌)
学会発表
リンガルブラケットによる成人骨格性下顎前突の治療について. 第60回日本矯正歯科学会大会,第3回国際会議,東京国際フォーラム,2001年10月8日,11日.
1. Vertical control. 2. Open bite case. 3. Telescopic occlusion case II. 4. Lingual bracket. 5. Skeletal Class III case. The UDF (Ulsan Dental Forum) International Dental Seminar, Ulsan, Korea. 2000.7.7.
リンガルブラケット装置の外科矯正治療適応に関する臨床的検討.第56回日本矯正歯科学会大会,東京国際フォーラム,1997年9月29日,30日.
治療例