上顎前突とは
上顎前突は、文字通り上あご、あるいは前歯が前方に突出している歯並びです。
一般的には「出っ歯」という呼び方をされている場合が多いかと思います。
この上顎前突は、見た目のコンプレックスに繋がりやすい他、かみ合わせが深くなってしまう、歯が出てしまうことで歯肉は乾燥してしまうといった症状を伴うため、歯列矯正を検討される患者様も多くいらっしゃいます。
上顎前突症の診断と種類
上顎前突には大きく分けて2つあります。骨格性と、歯槽性と呼ばれるものです。
前者は骨の位置の違いによって起きるもので、後者は前歯の傾斜角度によって起きます。そして実際には両者の混合型が最も多く見られます。
骨格性上顎前突症
矯正歯科においては、必ずセファログラム(側面頭部エックス線規格写真)を撮影します。
撮影においては世界共通の基準が設けられており、これを計測し日本人の平均値と比較することで、全体的なバランスを評価、診断します。
このセファログラムでは、上下顎骨の位置や形、大きさ、そして歯の傾斜角度を計測する事ができます。
Aと書かれたのが上顎骨の前方位置、そしてBと言うのが下顎骨の前方位置を示します。
A点、B点は厳格な定義に沿って定めるのですが、この確度の差が大きければ骨格性の上顎前突と診断をいたします。
従って、上顎骨が前方に位置していても下顎骨が後方に位置していても上顎前突となります。
実際には、下顎骨が後方に位置していることによる骨格性上顎前突が日本人の上顎前突の80%を占めると言われています。
手術を伴う外科矯正となる可能性
骨格の不正は成人の患者様では矯正治療だけでは治りません。外科手術の併用が必要となり、これを外科矯正といいます。
すべてが手術で解決するわけではありません。歯科は骨格だけでなく噛み合わせが加わるため、手術の前段階には矯正治療が必要です。これを術前矯正と呼んでいます。
もちろん矯正治療だけでも前歯の傾斜角度などを調節する事で、上顎前突は改善できます。
しかし、骨の位置は変化しません。もし骨の位置までの変化を望まれる場合は外科矯正をお勧めします。
外科手術はどなたも受け入れられる治療ではありません。こういった場合は外科手術のメリット、デメリットをしっかり説明させて頂いています。
因みにこのレントゲン写真の患者様はリンガルブラケットによる矯正治療のみを選択されました。
歯槽性上顎前突
こちらは骨格性の不正ではなく、前歯の傾斜角度によって起きる上顎前突です。
私の子供の頃に”おそ松くん”という漫画がありましたが、その登場人物の”イヤミ”をイメージするとわかりやすいかもしれません。
骨格性ではないので上顎骨の前方位を表すA点と下顎骨の前方位を表すB点との間にそれほど大きな差はありません。正常域に入っています。
しかし、上顎前歯の前方への傾斜角度大きく上顎前歯が前傾しており、口元が出ていて鼻と同じぐらいの高さにあります。
歯槽性上顎前突では口腔内から歯が出てしまうことが多く、歯肉が乾燥しがち。この状態は歯の健康には好ましくなく、歯周病に罹患しやすくなります。
機能性上顎前突
骨格性上顎前突、歯槽性上顎前突以外に実はもう一つ分類があります。それは機能性上顎前突です。
このセファログラム(側面頭部エックス線規格写真)は下顎安静位で撮影したものです。
下顎安静位は咀嚼筋(口を閉じる筋肉)と下制筋(口を開ける筋肉)の両方が働いていない状態を言います。
この状態から「噛む」過程で下顎が後方に誘導されるのが機能性上顎前突です。
機能性不正咬合はこの状態から不正な歯のかみ合わせによって、下顎が後方に誘導され上顎前突の状態となります。
機能性の下顎前突(反対咬合)や、片側性機能性の交叉咬合など他にも機能性の不正咬合があり、総じて早期治療が重要なポイントになります。
もし治療しなかったらどうなる?リスクは?
歯周病やう蝕の原因になる
睡眠時など口唇の力が入っていない状態では前歯と歯茎が露出し、乾燥してしまいます。これが死守病やう蝕の原因になります。
特に歯茎は乾燥に弱い組織のため、この状態ではブラッシングしても歯周病は治りません。
外傷を受けやすい
前歯が出ているので、転倒やスポーツで前歯に外傷を受けやすくなってしまいます。
外傷を受けた歯は靭帯組織が損傷して歯と骨が直接癒合してしまう骨性癒着(こつせいゆちゃく、アンキローシス)になりやすく、こうなると矯正治療いよって歯の移動ができません。
さらに歯はいずれは骨の中に吸収されてしまうため、将来には抜歯が必要になってしまいます。
睡眠時無呼吸症の原因になる
近年、睡眠時無呼吸症という病名を耳にしますが、実は下顎骨が小さく後退している事がこの原因になります。
睡眠時無呼吸症は仰向けで寝入る時に舌がその重みで喉の方向に沈下することによって起こりますが、下顎が小さいと喉を閉塞させやすくなります。
喉の閉塞により無呼吸になり、そして一時的に覚醒して舌を動かして呼吸してしまう。従って寝ているようで寝ていない状態になります。
上顎前突の治療に裏側矯正が適している理由
実は上顎前突の矯正治療においては、歯の表側に装置をつけるよりも裏側に装置をつける裏側矯正(舌側矯正)が適しているとされます。
それはなぜかと言えば、装置が外側にないことで口唇が前歯を内側に押す力が発生し、より歯を内側へ移動させる力を得ることができるからです。
筋肉の力は24時間作用します。この力は口もとを内側に下げるのに大変役立ちます。
上顎前突以外にも、上下顎前突(ゴボ口)、開咬の治療にリンガルブラケットが適しているのはそのためです。
上顎前突症の治療例
診断名 | 上顎前突 |
治療法 | リンガルブラケットによる舌側矯正 |
年代 | 20代 |
性別 | 女性 |
治療期間 | 30ヶ月 |
リスク | 歯の排列場所を十分に確保したうえで、治療を行う必要がある |
費用 | 費用:約135万円(税込) |
治療前
少しデコボコしながら上顎前歯が前方傾斜しています。そのために口元が出てしまっています。
そこで上顎第一小臼歯を抜歯させて頂いて舌側矯正(裏側矯正)で治療する事になりました。
リンガルブラケットでの治療は前歯を内側に移動させる事が得意な治療法です。
治療後
上顎第一小臼歯を抜歯させて頂いてその出来た場所をつかって排列と前歯を内側に移動する事が出来ました。
治療後に撮影したレントゲンから口もとの突出感が消失してきれいなE-lineを獲得している事がわかります。
すべての治療は舌側矯正(裏側矯正)でおこない、アンカースクリュウなどは使用していません。
その他の上顎前突症の矯正治療例
【上顎前突の治療について】
治療内容 : リンガルブラケットを用いた舌側矯正
治療費総額:135万円~155万円(税込)
※上記は標準的な費用です。保険適用外の自由診療となります。
治療期間 : 12か月~36ヶ月(症状や抜歯の有無によって異なる)
【リスク、副作用について】
・歯根吸収(歯根が吸収され短くなる)や歯肉退出(歯肉が下がる)が起こることがあります。
・ブラケットの周りにプラークが付着することにより、虫歯になりやすくなる場合があります。
・矯正治療中は歯の移動に伴い、動揺が起こる場合があります。一般的に移動が終了し2週間程度で解消いたします。
・矯正器具の装着に伴い、違和感や痛みを感じる場合があります。当院ではワックスやガードによる保護を行っています。