リンガルブラケットを用いた治療は出っ歯の治療に優れています。
リンガルブラケットの歯の動きの特徴
リンガルブラケットは歯の裏側(舌側、内側)に装置が装着されます。それが出っ歯を治療するのに役立ちます。一般的な表側の治療とは歯の動きが違います。
内側へ回転するように移動します。これが一般的な表側ですと逆回転が起きます。
C.RというのはCenter of resistance(抵抗中心)と言います。これは歯が前後に移動した時の回転軸になります。歯根の長さの上3分の一程度の場所にあると言われています。下方に力を加えると一般的なブラケットBでは前方傾斜が起きます。しかし、リンガルブラケットでは内側作用点があるために前方傾斜は起きません。これが内側に移動しやすい原因です。さらに臼歯部を後方に押す力になります。そこでアイ矯正ではアンカースクリュウを使用していません。アンカースクリュウは大臼歯を固定しておくために使用される装置です。臼歯を後方に押す力のあるリンガルブラケットには必要がありません。基本的にはなるべく外科処置はしない方針です。コルチコトミーやアンカースクリュウなどはトラブルの原因にもなります。
外側に装置がないので口唇が前歯を内側に押します
装置が外側にありません。そのために口輪筋などが外側から圧力をかけてくる力が前歯を内側へ移動させるのに役立ちます。舌の外側へ押す力はリンガルブラケットで抑える事ができます。筋肉の力は24時間作用します。この力は口もとを内側に下げるのに大変役立ちます。上下顎前突(ゴボ口)、開咬の治療にリンガルブラケットが適しているのはそのためです。
上顎前突症 : 骨格性上顎前突症
・骨格性上顎前突症(上下顎骨の位置の違いによる出っ歯)について
上顎前突には大きく分けて2つあります。骨格性か?歯槽性か?です。前者は骨の位置の違いによって起きます。後者は前歯の傾斜角度によって起きます。そして実際にもっとも多いのがこの混合型です。骨格性上顎前突症について記載します。日本人に多く見られるタイプを示します。
矯正歯科医は必ずセファログラム(側面頭部エックス線規格写真)を撮影します。これは全世界共通の証券で撮影されます。実物の1.1倍の大きさです。
これは上下顎骨の位置や形、大きさ、そして歯の傾斜角度を計測する事ができます。Aと書かれたのが上顎骨の前方位置、そしてBと言うのが下顎骨の前方位置を示します。(このA点、B点の位置決めるには厳格な定義があります。それについてはここでは説明を省略します。またレントゲンの読影には特別なトレーニングが必要です。)そしてAとBの角度の差が大きければ骨格性の上顎前突という事になります。
従って、上顎骨が前方に位置していても下顎骨が後方に位置していても上顎前突となります。相対的という言葉を使用します。上顎骨に対して下顎骨が後方位に位置している場合を骨格性上顎前突症と言います。こういった表現もできます。下顎骨に対して上顎骨が前方位にあります。これも同じ骨格性上顎前突症となります。相対的な位置関係という事です。
実際には下顎骨が後退している事が多い
この患者様の場合、上顎骨は前方に位置しているわけではありません。下顎骨は後方に位置しています。結果的に骨格性上顎前突となります。これが日本人の上顎前突の80%を占めると言われている下顎骨後退による骨格性上顎前突症です。
少し言葉としておかしいですね。上顎が前突していないのに上顎前突と呼びます。実際には下顎後退と呼ぶべきです。それでも昔から慣例的にそう呼ばれています。
日本人の顔立ちは下顎骨が前方に成長していません。白人はそんな事はありません。下顎がしっかりと張り出しています。白人の上下顎骨の位置関係は日本人のような差がありません。平均値は人種によって違いがあります。日本人の標準は白人にしてみれば最初から少し出っ歯(上顎前突)気味なのです。その理由からか?日本人は出っ歯に寛容な気がします。逆に反対咬合(下顎前突症)には敏感な所があります。そもそも下顎が出ているという横顔が、大多数の日本人とは違うと感じるからでしょうか?下顎前突が目立ってしまう理由がここにあるかもしれません。“顎がしゃくれている”と言った表現をするのもこのせいだと思います。
骨格の不正は根本的には矯正治療だけの治療ではなく外科手術の併用という事になります。しかし、外科手術はどなたも受け入れられる治療ではありません。こういった場合はしっかり説明させて頂いて外科手術のメリット、デメリットをカウンセリングさせて頂いています。因みにこのレントゲン写真の患者様はリンガルブラケットによる矯正治療のみでの治療を選択されました。
可能なのかどうか?どんな治療が必要かと言った事をアイ矯正では時間をかけて実際に治療を担当する矯正歯科医が説明させて頂きます。
上顎前突症 : 歯槽性上顎前突
これは骨格性の不正ではなく前歯の傾斜角度によって起きる上顎前突です。私の子供の頃に”おそ松くん”という漫画がありました。その登場人物に”イヤミ”という人がいます。この人はシェーという動作で有名になり、その当時子供たちがまねをして大ブームになりました。その影響でしょうか?出っ歯と言うとイヤミという事になります。そのイヤミは明らかに前歯がいつも出ていました。これが歯槽性上顎前突です。明石家さんまさんもそうかもしれません。出っ歯というキャラクターをうまく使ったのでしょう。いつも歯が出ていると歯肉は乾燥します。この状態は歯の健康にはよくありません。歯周病に罹患しやすくなります。
骨格性ではないので上顎骨の前方位を表すA点と下顎骨の前方位を表すB点との間にそれほど大きな差はありません。正常域に入っています。骨格性の上顎前突ではない事がわかります。しかし、上顎前歯の前方への傾斜角度大きく、上顎前歯が前傾しています。口元が出ていて鼻と同じぐらいの高さにあります。
これを歯槽性上顎前突症と言います。これは成人になってもきれいに治療できます。口元が後方に下がります。それは歯の傾斜角度を変える事が可能だからです。前傾している上顎前歯を後方に移動させるには場所が必要になります。そこで永久歯を抜歯して場所を作ります。最近になってマウスピース系の装置で非抜歯で歯を削って場所を作って治す。その結果前歯が内側に移動しないというトラブルをよく聞くようになりました。私にしてみればこれは当然です。非抜歯ではいくら歯を削っても目に見えて口もとが後方に下がる事はありません。では、この患者様の治療経過をお見せします。
かみ合わせが深いのでまずは下顎からリンガルブラケットを装着しました。レベリングで開始です。
上顎にリンガルブラケットが装着できるようになりました。第一小臼歯を抜歯した所です。ダブルアーチワイヤーを装着して上顎前歯を内側に牽引しています。
犠牲になる歯は第一小臼歯が多いです。これは前から数えて4番目にある歯です。この歯は前歯に近いために効果的に前歯を後方に移動させる事ができます。そしてこの歯の後方の5番目の歯は第二小臼歯と言います。第一小臼歯と第二小臼歯は見分けがつかないほど似ています。従って第一小臼歯を抜歯しても影響がありません。矯正治療で抜歯される歯と言えば4番目の第一小臼歯がもっとも多いです。
この患者様はいつも歯が口から出ています。口唇に力を入れないと口を閉じる事はできません。いつも前歯が露出した状態になり、歯や歯肉なは乾燥してしまいます。歯肉粘膜は乾燥に弱く、歯肉炎や歯周病の原因になります。さらにこの患者様にはありませんでしたが、ぶつけたり外傷によって前歯に回復できないほどのダメージがある場合もあります。
装置が外れる前の最終的なワイヤーが装着されています。
横顔を気にして来られる患者様は多くいます。なによりも鼻と同じ高さと言うのは患者様は気にされます。私ども日本人は欧米人に比べて鼻が高くありません。口元の突出は気にするところです。
治療後です。矯正治療によってかなり口元は内側に入りました。鼻も高く見えます。口唇の閉鎖もらくにできます。これなら歯周病の心配もありません。歯槽性上顎前突は矯正治療だけでとてもきれいに治療できます。しかもリンガルブラケットでの治療は上顎前歯を後方に移動させるのにむいています。成人の患者様はあきらめないでください。きれいに治ります。
見た目だけでは判断できない事があります。そこで精密な検査、分析、診断が矯正治療には必要になります。
在宅用のラッパーラウンドリテーナーを装着した所です。治療期間は33か月でした。抜歯した場合は2年から3年が標準です。
治療後のレントゲン写真です。歯を大きく内側に移動させた時の心配事は歯根吸収です。歯根吸収は認められませんでした。歯の健康を害するような歯根吸収の経験はありません。
上顎前突症 : 機能性上顎前突
骨格性上顎前突、歯槽性上顎前突以外に実はもう一つ分類があります。それは機能性上顎前突です。機能性というとどんな事をイメージしますか?おそらく食べる、飲み込む、しゃべるなどを思い浮かべる事でしょう。しかし、違います。この場合の機能って何かという事から記載します。
このセファログラム(側面頭部エックス線規格写真)は下顎安静位で撮影したものです。噛んでいないのがすぐにわかると思います。下顎安静位とは?下顎には咀嚼筋群(そしゃくきん)と下顎下制筋群が付着しています。咀嚼筋は下顎を挙上する筋肉です。簡単に言うと噛む時に使用します。これは非常に強い力を発揮します。噛まれると痛いですね。
これに対して下制筋は口を開ける筋肉です。お口を大きく開けていても疲れるし、噛んでいても疲れます。これはどちらかの筋肉が活動しているからです。そして下顎安静位はその両方の筋肉が働いていない状態を言います。もっともらくな位置です。一日の中でこの状態でいる時間がもっとも長いです。この状態は歯が噛んでいなくて少しあいているような状態です。寝ている時やボーっとしている時に口を少しあけているのが下顎安静位です。最近はNHKのちこちゃんに叱られる?でしたか。ボートしていると叱られます。この下顎安静位は歯を失っても変化しないと言われています。入れ歯を作る時の目安になります。
この状態から噛んでいる状態に行く過程で下顎が後方に誘導されるのが機能性上顎前突です。機能性の不正咬合はこの状態から不正な状態へ歯のかみ合わせによって下顎が誘導される不正咬合を言います。機能性の下顎前突(反対咬合)、片側性機能性の交叉咬合など他にも機能性の不正咬合はあります。総じて早期治療が重要なポイントになります。
この図で点線で描かれているのが下顎安静位です。そして実線で描かれているのが噛んだ状態(中心咬合位、咬頭嵌合位、習慣性咬合位)になります。噛みこんでいく時に下顎が後方に下がる。そのために上顎前突になるものです。この誘導の原因は上顎前歯の傾斜角度などが関わっています。
これは成人の患者様よりはお子様に見られます。なるべく早くこの状態を治療してあげる事が重要です。この状態が長く続くと成長発育に影響して骨格性へ移行する事があるからです。早期治療は治療後の予後も良好です。
では成人の患者様にはないか?と言うとそんな事はありません。矯正治療中に噛む位置が変わる患者様がいます。これは何らかの機能的な問題が治り、本来の位置で噛めるようになったと考えられます。下顎は大変器用に動きます。それが原因になる事もあります。
アイ矯正は成人の患者様が多い歯科医院です。しかし、お子様の治療が苦手というわけではありません。すでに矯正歯科医になって30年以上が経過しました。最初の頃に拝見した患者様がお子様をお連れになる事があります。これはとてもうれしい事です。また親御様の状態を知っているので治療がうまくいきます。お子様の治療は成長発育とともに行います。従って矯正歯科医には経験が必要です。
上顎前突は大きく分けて、骨格性、歯槽性、機能性の3つに分ける事ができます。
上顎前突症 : 過蓋咬合
上顎前突の中にはかみ合わせが深い、過蓋咬合(かがいこうごう)というのがあります。これは一般の方はこれが上顎前突、出っ歯の中に入るとは思っていないのではないでしょうか?
正面から見ると下の前歯が見えません。蓋(ふた)被せたような噛み合わせだから過蓋咬合と言います。これも上顎前突なんです。出っ歯の仲間です。歯が出ているというよりは中に入り込んでいて、しかも垂れ下がっていると言った感じを受ける事でしょう。臼歯まで完全に被さっていてすれ違ってしまっている場合もあります。噛みあっていません。こういった症状を特別にテレスコーピックオクルージョンと言ったりもします。おそらくこれは望遠鏡を伸ばしたり縮めたりしたときに上の部分がかぶさって収納するからだと思います。こういった症状の方の中で”私は治療する必要があるのでしょうか?”と聞かれた事があります。どうしてか?と言うとあまり目立ったデコボコがないからです。下の歯が見えない事も気が付いていなかったようでした。患者様によっては下の前歯が上顎の粘膜に食い込んでしまって硬い物を食べると痛いという方もいます。硬い歯と粘膜で物を食べ続ければ、上顎の粘膜に痕が着きます。ひどい時には骨が吸収してしまいます。
このセファログラムとそのトレースの赤丸の中に注目してください。上顎中切歯(中央の前歯)が後方にお辞儀したように傾斜している事がわかります。これがこの種類の上顎前突の特徴です。前回のPart-2では前歯が前傾している上顎前突について説明しました。それはまさに出っ歯といった感じでした。しかし、これは前歯が後方にお辞儀しています。後方傾斜しています。これも上顎前突に分類されます。噛みあわせが深いのが特徴です。
これはよくリンガルブラケットでは上顎前歯の裏側にブラケットが装着できないので裏側からの治療は無理だと言われています。そんな事はありません。これが治せなければリンガルブラケットの治療はできません。
上顎前歯を少し前傾させる事で治療ができました。前歯の角度を変える事で対応できます。満足して頂きました。表側からのアプローチでできる治療は裏側からでも可能です。ぜひご相談ください。
リンガルブラケットで舌癌にはなりません
最近、患者様から舌癌についての質問を受ける事があります。リンガルブラケットが刺激になってという事を心配されているようです。しかし、現在までそういった報告はありません。私どもの使用しているFujita Methodは40年に及ぶ歴史があります。その中で6回ほど大きくブラケットの形態を変更し現在の装置になっています。その中で舌癌になったという報告はございません。舌は筋肉の塊です。舌横紋筋でできています。筋肉は癌になりにくい組織です。例えば心臓癌で聞いて事ありません。心臓も同じく筋肉でできています。舌癌は扁平上皮癌です。上皮の癌です。非常に珍しい癌であるのは舌の上皮の癌だからです。リンガルブラケットが触れる舌の部分とは発生する場所が違います。ご安心ください。
骨格性上顎前突(出っ歯)で外科手術をする事もあります。
上顎前突について記載して来ました。日本人の多くの骨格性上顎前突の原因は下顎の劣成長によるものです。下のあごの前方への成長が不足していたために起きています。今までは矯正治療だけでの治療について記載してきました。今回は外科矯正について記載します。
外科矯正という言葉をご存知でしょうか?手術を併用するという矯正治療の事です。すべてが手術で解決するわけではありません。そこは美容整形との明らかな違いになります。美容整形は横顔を治す事を主に考えているはずです。歯科は噛み合わせがこれに加わります。手術の前段階での治療には矯正治療が必要です。これを術前矯正とよんでいます。術前矯正治療でおこなうことは、手術による骨の移動を考慮して歯を適正な位置に排列します。デコボコや八重歯などはこの時点で治します。さらに手術後のしあげをおこないます。これを術後矯正とよびます。そして保定は通常の矯正治療と同じように行います。美容とはかなり違います。美容にするか?歯科を選択するか?も判断して頂く必要があります。私は歯科での外科矯正をお勧めします。
横顔のレントゲン写真(セファログラム)がもっとも重要です。A点は上顎骨の前方限界点です。B点は下顎骨の前方限界点を表します。これは矯正歯科の分野で厳密な定義で決められています。このA点とB点の差が大きければ大きいほど骨格性上顎前突であるという事になります。もちろん矯正治療だけでも前歯の傾斜角度などを調節する事で上下前歯の差は改善できます。しかし、骨の位置は変化しません。もし骨の位置までの変化を望まれる場合は外科矯正をお勧めします。
患者様が何を求めているか?これは大変重要な事です。そしてそれが可能か?という事で判断させて頂いています。カウンセリングの時間をしっかりお取りします。最終的にどちらを選択するかは患者様が決める事です。実際には外科矯正を選択される方はアイ矯正では年間数名はいらしゃいます。入院する時期なども学生さんですと夏休みや大学受験の終わった春休みなどに計画する事が可能です。新しい自分になれるという喜びがあります。
もちろんリンガルブラケットで見えない矯正治療も外科矯正が可能です。ご相談ください。
このブログの中でもよく出てくる側面頭部エックス線規格写真(セファログラム)について今日は記載します。このレントゲン写真は全世界共通です。実物の1.1倍の大きさで撮影されます。
今はデジタル化されているのでコンピュータの画面上で計測ポイントを入力していきます。矯正歯科医を志すとまず最初にこのレントゲン写真を読影する事から始まります。普通の歯科医ではこのレントゲン写真の読影はできません。どこを計測点にするかといのは解剖学的な構造をよく理解しておく必要があります。これが矯正歯科医の専門性のまず入口になります。登竜門ですね。
私の師である先生は当時医局でももっとも厳しい先生でした。何度ダメ出しされたかわかりません。挫折した歯科医が多くいました。今は大変感謝しています。若い先生を育てるとというのは難しい事だと感じています。
一般の歯科医の先生が矯正治療を勉強したいと言って相談に来られる事があります。一番最初に遭遇する困難な事がこれです。かなりたくさんのレントゲン写真を読影する特別なトレーニングが必要になります。正確に読影するには何年もかかります。この計測点を日本人の正常咬合者の平均値と比較して客観的に判断します。さらにその患者様個人個人の状態を把握して診断する事になります。とてもロボットではできません。AIでも無理だと思います。
ボヘミアンラプソディを観に行ってきました
祭日の月曜日にクィーンのボヘミアンラプソディを観に行きました。映画館は満席でした。私はクイーン全盛期の世代だったのですが当時は耳に聞こえてくる程度で興味を持っていませんでした。
矯正歯科医として興味深かったのは映画の中で彼の出っ歯を批判するような発言を受けるシーンが何度かありました。“そのビーバのような歯” とか “その出っ歯を治せ”と言った所です。メンバーの中に歯科学生がいたのも影響したかもしれませんが、まったく関係のない人からの指摘もありました。彼の伝記のような映画は限られた時間の中でのものです。その中で何度も出っ歯について触れるのはかなり違和感を感じましたが、歯並びに厳しいお国柄の文化を表している思います。日本では気になるほどではないと思った人も多くいると思います。この出っ歯を治すと声が出なくなるといった反論するようなシーンもありましたが、実際に矯正歯科の立場からそんな事は起こりません。やはり治療できなかったという事はくやしかったのではないでしょうか?
私がシカゴに留学中の事です。所属していた大学病院の矯正科には移民の人、白人ではない患者様が多く来院していました。アメリカという社会になじむためにも矯正治療を受けることが必要だったのでしょう。大学病院では修士の研修医が治療をしています。したがって練習という事で料金も安い設定になっていました。大学院生の一人で仲の良かったショーンはすごくきれいな歯並びをしていました。少しでもずれてくるとそれを気にしていました。
矯正治療の指標にしている白人の骨格の標準値は、実は日本人の基準値とは違います。白人は日本人に比べて下顎骨がよく成長していて、前方位にあります。これに対して日本人は白人と比べると下顎が後方にあるために相対的には少し出っ歯(上顎前突)の状態が標準値になります。下顎骨が小さく後方に位置しているのが日本人の特徴です。基準としている値は人種によって違います。横顔の指標としてよく用いられるエステティクライン(E-line)も白人と日本人では違います。よくE-lineを気にしている人がいます。その方が知っているE-lineは日本人の基準です。
その影響か?アメリカではもっとも気にする歯並びは出っ歯(上顎前突)だと聞いた事があります。日本では下顎前突(受け口、反対咬合)です。日本人の標準値の方は白人社会では少し下顎が後退した出っ歯という事にもなります。映画の限られた時間の中で出っ歯についての場面が何度も出てくるのは、それが彼にとっては大きな問題であった事を意味しているのではないでしょうか?もちろん治療はうけていませんでした。成長期に治療を受ける環境になかったとも言えるかもしれません。
日本でリンガルブラケットが生まれ、成長してきたのもこの点では同じです。私はまだ日本では矯正治療は一般化していないと思っています。成長期のよいタイミングでは治療を受ける事ができなかった。成人になると装置が目だつ。それを受け入れてくれる周囲の環境整備はできていない。そこで”見えない矯正治療”が必要となります。リンガルブラケット
この映画を観て思った事は色々な事での差別、そして孤独でした。芸術家としての感受性の強さも影響したかもしれません。彼には理解者と強力な支えが必要だったのですね。ご冥福を祈ります。
もし治療しなかったらどうなるか?リスクは
歯周病やう蝕の原因になります。
睡眠時など口唇の力が入っていない状態では前歯が露出しています。歯茎は乾燥に弱い組織です。そのために歯周病になりやすくなります。この状態ではブラッシングしても歯周病は治りません。
外傷を受けやすい
前歯が出ているので転倒やスポーツで前歯が外傷にを受けやすいです。外傷を受けた歯は骨性癒着(こつせいゆちゃく、アンキローシス)になりやすいです。これは歯の周りを支えている靭帯組織が損傷して歯と骨が直接癒合してしまう事によって起きます。骨性癒着した歯は矯正治療いよって歯の移動ができません。歯はいずれは骨の中に取り込まれていきます。吸収されてしまいます。将来は抜歯する事になります。
下顎骨後退による骨格性上顎前突:睡眠時無呼吸症の原因になります。
最近、睡眠時無呼吸症という病名を耳にします。実は下顎骨が小さい、後退している事がこの原因になります。睡眠時無呼吸症は仰向けで寝入る時に舌がその重みで喉の方向に沈下します。下顎が小さいと喉を閉塞させやすくなります。呼吸ができないために呼吸が止まります。無呼吸になります。そして一時的に覚醒して舌を動かして呼吸します。従って寝ているようで寝ていない状態になります。
アイ矯正歯科クリニックにおけるリンガルブラケットを用いて治療を行った上顎前突症例
治療例No.148 先天欠如 乳歯の晩期残存 過蓋咬合(かがいこうごう)翼状捻転
治療例No.70 上下前歯の著しい叢生 翼状捻転 かみ合わせが深い上顎前突
治療例No.117 上顎前突(出っ歯)下顎叢生 口もとの突出感